すぐに始められるDX 企業がDXを進めるために知っておいてほしいこと守りのDX の進め方

2023.11.27
守りのDX の進め方

DXを始めたいけれど、何から始めていいかわからない。DXという言葉は聞くけれど、本当にやる必要があるのだろうか。そんなふうに思っている企業の方は少なくありません。そこで、を企業がDXを進めるために知っておいてほしいことをお伝えします。

前回、DXにおける3つの課題を紹介しましたが、改めて整理します。

守りのDX を進める4つのステップ

DXを推進する際の手順としては次の4つのステップがあります。

ステップ1:DX推進の目的の明確化
ステップ2:DX推進体制の構築
ステップ3:現状の把握
ステップ4:DX導入に向けた具体的な推進

1. DX推進の目的の明確化
DXのやり方がわからないという企業は、まず守りのDXと攻めのDX、どちらをやるか、DXの目的を明確にしましょう。

攻めのDXと守りのDXを一緒にやろうとする企業がありますが、そうすると結構前に進まなくなってしまうケースが多いのです。なぜかというと、「経費削減の話」と「売上を上げる話」は、お金を使う方向性が違うからです。ECサイトでお客様向けにこうしたほうがいいと表にお金を使うのと、バックヤード側にお金を使うのでは、システムを作る上でも綱引きになってしまいます。ですから、攻めのDXと守りのDXを一緒にやってはいけないということではありませんが、もし一緒にやるのであれば、プロジェクトやお財布を分けてやってみるほうがいいと思います。

そして、まずは、業務処理の効率化・省力化をやってみましょう。すると、「久原さん、いい測定ツールってありますか?」と聞かれることがあります。「測定ツールでDXがうまくいったかどうかを測らなければいけない」といわれるのです。でも、測定することは手段でしかないので、まずは大きく成功と失敗をこのように考えましょう。投資したお金と削減された人件費を比べてみて、削減された人件費が大きければ成功です。逆に1000万円投資しても全然人件費が減らなかったら失敗です。

なぜ業務処理の効率化・省力化が成功するのか。実は、ここにヒントが隠れています。投資した金額が例えば10万円で、削減された人件費が30万円の残業代だった。これは成功です。では、投資した金額、ちょっといいツールを入れた100万円で削減された人件費は30万円。これは失敗に見えますが、2年、3年続けていくとどうなりますか? 投資した金額は最初に払いますが、削減された人件費が毎年30万円だとすれば、いつか逆転します。ですから、業務処理の効率化は長く続けると成功するのです。そのツールを使わなくなってしまったり、莫大な投資をしてしまったり、難しいツールを入れて人件費がさらに上がってしまうといったことをしなければ、成功します。

2. DX推進体制の構築
DX導入を検討しようと経営者が判断する。その後に何があるかというと、推進体制の構築です。中小企業であれば、できれば「ITに詳しい〇〇さんやっておいて」ではなくて、社長や経営者が自らやったほうがいいと思います。

3. 現状の把握
現状分析をやらない企業も結構多いです。DXを進める上で、同業他社の成功事例を見て、これを入れれば成功するのかと思って同じものを導入して始めてしまうと、元の効率がどれだけ悪かったか良かったかわからなくなってしまいます。ですから、ここが成功するために一番重要なところですが、最初にやらなければいけないことは、業務面積を測ることです。

業務面積とは業務時間と業務を行う人数をかけたものです。なぜこれをやらなきゃいけないのかを説明します。中小企業で、「この業務が大変だ」と声の大きい人がいます。年に1回ある決算書を作る手前の2週間、「ものすごく俺は大変だ」と主張する。でも、この面積を考えてみると、2週間ちょっと残業したとしても、業務時間100時間くらいのものです。

しかし、40人の社員が毎朝朝礼をやる時間30分や、お客様にアポを取る時間を掛け算したら、すごく大きな面積になります。短い時間でも、たくさんの人が関わって毎日やるようなことは面積が大きくなります。まず何の面積が広いのかを可視化することが重要です。

次に面積の広い順に検討するのです。すると、面積は広いけれどDX化するにはちょっと難しい内容も出てきます。例えば販売員。高級なお店でスタッフの人件費がかかるから、販売員はみんなPepper(ペッパー)くんにしておけばいいだろうという話になったとします。でも、それでは売り上げが落ちるのではないでしょうか。つまり、DXには向き不向きがあるのです。まず面積が大きいものから検討はしますが、実際には簡単なものから順番にやっていく必要があります。

4. DX導入に向けた具体的な推進
ツールを選んだ後は、試しに入れて測定してみてから、本格導入する。本格導入した後に、また現状分析でどのくらい良くなったかを把握する。この導入に向けた具体的な推進が結構難しいものです。

まず何かツールを入れるとなった時に、予算を取らなければいけません。統計結果が出ているのですが、DX投資やIT投資に年商の1%を使っている企業は売上も上がり、黒字化していて、業界でも元気です。もちろん業界によって、たとえば金融関係は7%、土木は0.5%といった具合に数字が変わってきますが、まずはだいたい1%を目安に考えてください。

ここで注意が必要です。年商が1億円だから100万円ぐらいは使ったほうがいいと思うかもしれませんが、100万円のサービスを買うという話ではなくて、積み上げた結果、1%使っている状態だということです。面積の広い順に取り組んでいき、これは10万かかった、これは20万円かかった、と積み上げていって、振り返って決算書を見てみると年商の1%を超えた状態なのです。ですから、1億円の1%なら100万円だからと100万円のITツールを買うと失敗してしまいます。ここだけは気をつけてください。

DXを始める第一歩

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか? 投資ができる予算がない、うちは1%も出せない、お金を出す気もない、と思っている人に、DXの価値を感じていただきたいと思います。

まず、パソコンの性能を見直しましょう。モニターを大きくすれば、生産性が上がります。作業の机が大きくなると書類がたくさん置けるのと同様に、モニターを大きくすると視野が広くなって生産性上がります。どのくらいの大きさがいいかというと、27インチがおすすめです。その理由は、27インチの商品がたくさん出ていて、コスパがいい、安いからです。Amazonなどで1万円〜2万円で買えます。

モニターを変えると生産性上がります。これには教育も何も必要ありません。これが、ソフトウェアの場合だと、インストールしたり使い方を覚えたりしなければいけませんが、その必要がないので、ハードウェアはわりとすぐに生産性が上がるのです。これでITに投資すると生産性が上がるということを、まず体験してください。

次にパソコンの状態を確認しましょう。たとえばキントーンのようなソフトウェアをインストールして使おうとしたとします。でも、パソコンが重い状態でなかなか動かないと、それがストレスでキントーンが使えないと判断されてしまいます。ですから、ソフトウェアを入れる前に、ハードウェアの状態を確認しておく必要があるのです。

それから、無料のツールも活用しましょう。まずは、高いソフトを買う前に、無料のソフトで便利さを体験して実感することが大切です。コミュニケーションツールやタスク管理、ミーティングのツール、たとえばGoogleドライブ、Gmail、Zoom、Chatworkなどは、使っている企業も多いのですが、実は導入はしているものの使いこなしていないという企業が少なくありません。

DX推進に不可欠な実体験の重要性

実際、私が携わった事例を紹介します。この企業には問題がありました。忙しくてタスクを忘れてしまうのです。その問題を解決できる課題に落とそうということになり、話し合いの結果、秘書がいれば、社長の隣にいて覚えておいてくれて、やったかチェックしてくれるだろうということになりました。社長が僕のところに電話をしてきて、「久原君なら何かいい案を知っているよね」というわけです。それで、その会社に状況を確認しに行くと、もうすでに導入しているITツールがありました。「こんないいものを持っているじゃないですか。このツールに代わりに覚えてもらえばいいんですよ」とお伝えすると、「そんな機能があったのか」という反応が返ってきました。

ITツールに代わりに覚えてもらえば、秘書みたいなこともできるのです。ただ、そのためには、自分で入力する必要があります。タスク登録をする習慣をつけなければいけません。

実際に、この企業が使っていたツールはチャットワークとGoogleカレンダーです。思いついたタイミングでタスクをどんどん登録してください。何でもいいです。牛乳を買わなきゃいけないとか、息子を迎えに行かなきゃいけない、でもいいのです。1日の始まりに、通勤電車でも会社に到着してからでも、Googleカレンダーに入れて、その時間になったら携帯のアラームを鳴らすようにする。まるで秘書が肩をたたいてくれるような状態にすると、忘れることがありません。

それで、一人ずつ説明して、最終的に一番わからなかった社長も含めて使っていただき、問題は解決しました。ここでポイントがあります。私は毎週この会社にお伺いしていたのですが、なぜかというと、習慣化しないといけないからです。こうすると便利だ、とわかったけれど、なかなかできないので、習慣化させるために行っていました。それで1カ月半ぐらい行っていたら、内部で勝手に回るようになっていたのです。すると、その社長は、「次のツールや次のやり方を教えてください」と言ってきて、次々とDXを進めていくことになりました。このように、小さな企業でもDXはできるという実体験があります。

今回は、守りのDX の進め方を紹介しました。次回は、攻めのDX の進め方について提案します。

久原健司

久原健司

日本一背の高いITジャーナリスト/株式会社プロイノベーション代表取締役 IT企業を経営する傍ら、“日本一背の高いITジャーナリスト”として様々なwebメディアでの執筆や母校の東海大学で特別講師として、定期的に授業も行っている。 ITに関する講演を得意としており、受講者のITリテラシーに合わせて話す内容を変えることができ、企業に寄り添った講演が人気。