【インタビュー】人口減少社会の課題に挑む GOGEN株式会社の不動産業界変革サービスに迫る(後編)

2024.03.14
【インタビュー】人口減少社会の課題に挑む GOGEN株式会社の不動産業界変革サービスに迫る(後編)

不動産売買のDX推進、UX創造に係るサービス等の企画・運営、各種コンサルティングを手掛ける2022年創業のスタートアップ企業「GOGEN株式会社」は、不動産売買に特化した電子契約サービス「Release(レリーズ)」の提供や、手付金が不要となる住宅購入支援サービス「ゼロテ」の開発、ChatGPTを活用したマンション管理向けチャットサービス「Chat管理人」等の提供を行っています。代表取締役CEOの和田浩明さんに、創業した動機や不動産業界にデジタル化が必要な理由、今後のビジネスの可能性について、お話を伺いました。
(前編はこちら)

和田浩明(わだ・ひろあき)
新卒で日鉄興和不動産株式会社に入社。分譲・賃貸マンションの用地仕入れ・開発マネジメント・商品企画・販売推進など住宅事業全般を経験。その後、経営企画・CVC運営・DX推進・広報などに従事。2022年2月にGOGEN株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。

「不動産売買ならレリーズ」というポジションを目指したい

久原
お話を聞いている中で、ポイントとなるフレーズが「データ」という言葉です。デジタル化すると、すべてがデータ化されます。今後も、あらゆるもののデータ化が進み、データ化されていないものに対しては、世の中に存在しないものになっていくことも考えられます。

御社ではサービスのデータを横断化させるときに、セキュリティの問題はどのように解決されているのでしょうか?

和田
特別な特許技術を開発しているわけではありませんが、データの取扱いにおいては権限や認証が非常に重要です。

例えば、A社という企業のデータにアクセスする場合、誰がそのデータを見ることができるのか、あるいはデータを共有することができるのかといった点が重要になります。これは不動産業界でも同様で、不動産会社同士の取引においても権限管理が必要です。その基盤設計については一筋縄にはいかないので、かなりこだわり、時間をかけてきたと思います。

撮影:鹿野貴司

久原
データの権限管理が重要なポイントということですね。例えば、ドロップボックスのようなサービスを利用してデータを管理することがありますが、権限設定の複雑さや、ITリテラシーの低い人への対応が課題となってきます。不動産業の方も、必ずしもITに精通した方ばかりではないと思うのですが、誰もがうまく使いこなせるように、サービスのほうで設定をされているのでしょうか?

和田
そういう意味では、サービスのほうでリードしていく必要があると考えています。データ管理の設計では、不動産業界の取引の動きや、デジタルとアナログの両方のデータを考慮する必要があります。契約手続きやタスクの分解を行い、汎用性を一定担保しながら、柔軟に設計できるようにしています。目指す形としては、不動産業界の売買を扱っている人は全員がこれを使っているといえるようなシステムです。「不動産売買ならレリーズ」というポジションを目指したいと思います。

不動産業界においては、共通のインフラとして「レインズ」(国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステム)が重要ですが、外部システムとの連携を認めていないので限界があるのです。理想としては、そうした共通インフラに近い性質のものができるといいのですが、本来は、民間でやるべきことなのか、国がやるべきではないのかと思うこともあります。

久原
民間が主導でやらないとできないのではないでしょうか? 最近は、一般の方でもレインズを知っている人が増えていて、不動産屋さんに「レインズを見せてください」と言ってくるような人もいるので、売買手続きとレインズの情報の連携に対する要望は実際にあると思います。お客さんの求める体験に対して、実現できることとできないことがあると思いますが、いま特に壁と感じているところはありますか?

和田
連携よりも現場の部分ですね。現場の方が「これが欲しい」というものは使ってもらえるのですが、単なる一機能、便利化で終わるわけではなく、不動産は一件一件が大きいので、失敗したくない、今までのやり方を踏襲したい、と思われる方も多いのでハードルは高いです。

売買契約書のデータ化などを活用して収益に

久原
企業側には、御社のサービスを利用する数字的メリットはどのようなものがあるのでしょうか? どのように企業を集めているのですか?

和田
大きく2つのアプローチがあります。1つはトップダウンです。企業活動として経営的な視点で広めていくことで、大手企業を中心としたDXソリューションのスタンダードになれれば、業界全体に浸透していくと考えています。もう1つは、足元のニーズからの積み上げです。「これができたらうれしい」「これが欲しい」という現場の声にも対応しています。会社としては両方進めています。

久原
前者はすごくわかりやすいですね。大手がやっていて文化になってしまえば、当たり前のことになるという流れですね。ただ、いまはまだ現場の50代の人が従来のやり方のほうがやりやすいと主張するケースも多いのではないでしょうか?

和田
例えば、最近取り組んでいる帯替え作業の効率化があります。物件の図面の下に書いてある不動産会社の名前をチェンジする作業「帯替え」を、ソフトウェアの活用によって自動化しているのですが、確実に作業が早くなるので、やらない理由がないんですね。そういうことの積み重ねが大きなきっかけになりうると思っています。

撮影:鹿野貴司

久原
単純に売上が上がるなら使ってみたいと思うでしょうが、正直、いまのままで売上が上がっている企業では、そこまで未来を考えていないとレリーズを導入するところまで至らないのではないでしょうか?

和田
2つの側面があり、半分はおっしゃる通りだと思います。残り半分の話からお話をすると、現場の従業員やお客様の違和感に向き合わないといけないと考えています。

適切なデジタル化や、ビジネスの改善を進めていかないと、売上以前に従業員自体がいなくなってしまう可能性があります。大手に勤めていた若手も辞めて他社に移ったり、フリーランスになったりしている時代なので、目先のシステムを入れる前に、現場の従業員たちのカバーをしていかないと本質的な経営ダメージにつながりかねません。

売上についてはおっしゃる通りです。お話してきた世界観が売上になるのは、5年後かもしれません。ただ、現在、売買契約書のデータ化、電子契約やクラウド保管を行っていますので、それを活用して収益につなげる方法があります。

たとえば、保存されたお客様のデータから火災保険の見積もりを自動で作成したものを、お客様にお送りし、お客様が加入したら不動産会社にお金が戻ってくる仕組みです。短期的な売上だったとしても、現場の営業がお客様にご説明をすることで収益につながるものですので、これも売上を上げる方法と考えています。

さらにお客様に物件を提案する、まさに売上に直結するアプローチも合わせて伸ばしていく必要があると思います。いま取り組めることを売上につなげていく、これを追求していかないといけないと非常に痛感しています。

デジタル化技術のハードルが下がっているいまがチャンス

久原
不動産に関して売買の話だけしてきましたが、不動産会社の中には賃貸や内装工事、飲食店など、さまざまな方面に伸ばしていくところもあります。売買の仕事は、一般的に売ったらそこでおしまいですが、トヨタが車の販売だけでなく、移動手段を提供するビジネスモデルなど事業を拡大しているように、不動産も売買で終わりではなく、例えばメンテナンスやコンサルティングのような形で顧客接点の時間軸を伸ばすようなことも、データがあるとできる可能性がありますね。

和田
実際あると思います。不動産は経済圏が大きい分、細やかにカバーできていない部分は間違いなくあるので、そこは経営目線で可能性が十分あると考えられます。

久原
家を買った親御さんに子どもが生まれて、その子どもが大人になったときに、親と同じ不動産屋で買ってくれるように、ずっと追いかけ続けるというシステムだったら面白いですが、それでは長すぎますかね。

和田
もっと短いところにも、同様のことはあると考えています。保険に関しても、自然災害が多すぎて、保険会社は火災保険の契約期間を以前の35年から5年に変更しました。そのため、更新業務が増えて、一説では不動産会社の保険事業部の業務量が10年前の数倍から数十倍になったといわれています。さらに同じ人数で、35年分一括で入っていた手数料が5年分しか入ってこなくなり、収益が落ちています。このビジネスモデルは変えていかないと回らないですよね。こうした点でも、デジタル化を含めて変えていくことの意義は目の前にかなりあると思っています。

久原
夢がありますね。何でもデータ化することによって老朽化したビルもわかるし、地震などの災害に備える意味でも、かなりの部分がデータ化されると可能性が広がりますね。

和田
データ化のハードルが下がったことも利点だと思っています。これまではデータといっても、紙をデジタル化しただけで、まだデータベースになっていないものが多かったのです。ところが去年から今年にかけて、生成AIによってデジタル化技術のハードルが下がっているので、そうした取り扱いも含めて向き合っていけるチャンスではないかと感じています。

久原
なるほど面白いですね。また、1年後か2年後の展開が楽しみですね。

和田
はい。僕ら自身も5年後、50年後と目先のところ、両方に向き合いながら事業を進めていきたいと思っています。

久原
壮大な熱い思いが伝わりました。御社の取り組みによって、世の中がよりよくなることを期待しています。

あわい こゆき

あわい こゆき

ライター。主に女性のライフスタイルをテーマに執筆。一般の人から芸能人、文化人、企業の社長、政治家まで幅広く取材しています。