すぐに始められるDX 企業がDXを進めるために知っておいてほしいことDXに取り組む企業の現状

2023.09.03
DXに取り組む企業の現状

DXを始めたいけれど、何から始めていいかわからない。DXという言葉は聞くけれど、本当にやる必要があるのだろうか。そんなふうに思っている企業の方は少なくありません。そこで、を企業がDXを進めるために知っておいてほしいことをお伝えします。この話は数回に分けて進めていきます。

まず、企業がDXにどれくらい取り組んでいるか、現状についてアンケート結果をもとに紹介します。次に、DXを進める上での3つの課題の解決とDX人材の5つの役割を解説します。そして、守りのDX の進め方を具体的に紹介します。最後に攻めのDXについて提案します。

DXとは何か?

DX、デジタルトランスフォーメーションとは、非常に簡単に言いますと「ITを使って世の中を良くしよう」ということです。生活を良くしようとか、会社を良くしようという、本当にそれだけのことなのです。実は2004年に、スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマンさんが概念的にITを使って良くしましょうと提唱しました。

ここに実は1つだけマジックワードがあります。それは何かと言うと「浸透」という言葉です。世の中にITが浸透したか浸透してないかは何で測ればいいと思いますか? 今ほとんどの方がスマートフォンお持ちですよね。明日から、「スマートフォンを使ってはいけません」と会社から言われたら、どう思いますか? 「えっ困る。こんなんじゃ仕事にならない」といったネガティブな言葉が出ますよね。これが浸透しているということです。

もう生活の一部になっていて、なければならないものだから、ITは浸透している、そういうことなのです。逆に例えば新しいITツール、たとえばキントーンを入れました。触っていてなんだかよくわからない。難しい。そんな時に会社から「明日からキントーンは使ってはいけません。元の業務に戻ってください」と言われたら、難しいとかできないなと思っていた人は、やっとこれから解放されると喜ぶかもしれません。この状態だと浸透したとは言えない状態です。

DXの6つの取り組みテーマ

実はDXは2つの属性に分けられることを、まずは知っていただきたいです。

ひとつは「守りのDX」。社内向けのことで、言ってみれば経費削減です。具体的に言うと、バックオフィス、経理や総務の方が給料計算や経費の精算をシステム化して楽にしよう、5人でやっていたところを4人でできるようにして、残業を減らそうということです。一方、「攻めのDX」は何かというと、どちらかというと営業マンやマーケティングの人が売上を上げるために社外向けにやるということ。

DXの取り組みテーマは3つの「攻めのDX」と3つの「守りのDX」に分類することができます。

出典:「日本企業のデジタル化への取り組みに関するアンケート調査」結果速報~日本企業のDXへの取り組み実態、成功企業の特徴について~(株式会社NTTデータ経営研究所)

縦軸の下に行けば行くほど業務の効率化になり、トランスフォーメーションの目的、要は生産性を上げようとすることで上に行けば行くほど、売上を上げる攻めのDXになっていきます。

6つのテーマを簡単に紹介します。まず業務処理の効率化・省力化。経費計算などのソフトを入れて楽にする。資料をスキャンして電子ファイルにしてクラウドに置くといったことです。

次に、業務プロセスの根本的な改革・再設計。仕事の中で、この仕事はなぜやっているのかわからない仕事が結構あるのではないでしょうか? 前の人が何かミスをしたから、その対策としてこんな業務があるとか、こんなチェックを入れなければいけないといったことです。でも、それはツールを入れたら、もうやらなくていいことなのです。具体的には給与計算のダブルチェック、2人で電卓を打ち合って突き合わせて合っているか確認するような作業はもう必要ありません。

3番目は、経営データ可視化によるスピード経営・的確な意思決定。「BI(ビジネスインテリジェンス)ツール」という、リアルタイムで店舗の売り上げがわかったり、在庫の情報がわかったりするツールを使うことによって、スピード経営していきましょうということです。これはどこに有効かというと、洋服の販売のように時期が重要なものです。服はどんどん日がたつとセール品になってしまうので、売れる時に売って在庫もギリギリまで少なくします。

4番目は既存の商品・サービスの高度化や提供価値向上。AI搭載された家電のようなものは高度化していきます。

5番目は顧客接点の抜本的な改革。ECサイトを作ったり、商品を店舗で販売後にアフターケアをしたり、接点をずらしていくことです。

最後はビジネスモデルの抜本的改革。ビジネスモデルを変えようとした時に何を変えればいいか、これが結構わからないのです。まったく新しいことをすればいいというわけでもなく、わかりやすいところで言うと、サブスクリプションです。今まで商品買うときにお金を払っていたものが、使い放題で毎月定額を払うようになる。要はお金を支払うタイミングが変わるということです。そうなると、ビジネスモデルはかなり変わってきます。

出典:「日本企業のデジタル化への取り組みに関するアンケート調査」結果速報~日本企業のDXへの取り組み実態、成功企業の特徴について~(株式会社NTTデータ経営研究所)

この資料は、DX取り組み企業がどのようなテーマのDXに取り組んでいるかの調査結果です。これを見ると、業務処理の効率化・省力化が一番多い。やれば結構成功することなので、取り組んでいる企業の割合が多いんですね。攻めのDXになればなるほど、イノベーションの達成難易度が高くなればなるほど、あまり取り組んでいない傾向があります。

アンケートに基づくDXに取り組む企業の現状

中小企業の皆さんに聞くと、うちはまだDXをやっていないけれど、周りはどうなのか気になるという方が多いようです。そこでこれから、アンケート結果をもとに全国でどのような状況なのかを皆さんに把握していただきます。

DXの取り組み状況

DXへの取り組み状況(過去3年の推移)(出典:日本能率協会「日本企業の経営課題2022」調査結果速報)

DXの取り組み状況を過去3年間で見てみると、2020年、すでに取り組みを始めている企業が28.9%、約30%です。2021年になると45.3%、1.5倍くらいに跳ね上がります。そして2022年になると55.9%。2社に1社でDXに取り組んでいることになります。

 DXへの取り組み状況(従業員規模別の比較)(出典:日本能率協会「日本企業の経営課題2022」調査結果速報)

55.9%という数字は企業全体ですが、大企業になると82.1%が取り組んでいます。中堅企業が58.3%で、中小企業が36.1%。ご存じの通り日本の中小企業の割合は99.7%。ほとんどの企業が中小企業なので、3〜4社に1社くらいは取り組んでいるということになります。

DXの取り組みの成果に対する評価(昨年との比較)(出典:日本能率協会「日本企業の経営課題2022」調査結果速報)

こちらはDXの取り組みの成果の評価です。合計でなんと70.7%も成果が出ていると答えています。2021年と2022年を比較してもかなり伸びています。

取り組みの当初、最初に例えばキントーンを入れて1カ月でいきなり成果が出るかというとそうではありません。しかし、使い続ければ成果が出ることがこれでわかるかと思います。

DXの取り組みの成果に対する評価(出典:日本能率協会「日本企業の経営課題2021」調査結果速報)

もうひとつ面白い資料があります。去年の資料ですが、成果が出ていると答えた企業が58.9%。右側のグラフには、全体と企業の規模別の割合が出ています。紫色の「ある程度成果が出ている」という回答が、全体も大企業、中堅企業、中小企業も、若干のばらつきはありますが、だいたい一緒です。つまり、DXは大手だけのものではなくて、中小企業でもやれば結果が出るということです。

DX推進の課題(出典:日本能率協会「日本企業の経営課題2022」調査結果速報)

次に重要となってくるのが課題です。この資料を見ると、大きく分けて3つの課題があることがわかります。1つはDX人材がいない、不足している。もう1つはDXのやり方がわからない。そして3つ目は投資できる予算がない。この3つが壁となって、企業がDXを始めようとしても、一歩踏み出せない、踏み出したとしてもなかなか進むことができないのです。

それでは、次回、この3つの課題を解決していきたいと思います。

久原健司

久原健司

日本一背の高いITジャーナリスト/株式会社プロイノベーション代表取締役 IT企業を経営する傍ら、“日本一背の高いITジャーナリスト”として様々なwebメディアでの執筆や母校の東海大学で特別講師として、定期的に授業も行っている。 ITに関する講演を得意としており、受講者のITリテラシーに合わせて話す内容を変えることができ、企業に寄り添った講演が人気。