【インタビュー】地方DXの課題といよぎんデジタルソリューションズの取り組み(後編)
いよぎんデジタルソリューションズ 代表取締役社長 小野和也氏(左)(聞き手:久原健司)
愛媛県松山市で地方DXに取り組む「いよぎんデジタルソリューションズ」。前編では、代表取締役社長の小野和也氏に、いよぎんデジタルソリューションズ設立の経緯や実際の支援フローについて聞きました。後編では、具体的な支援の事例や、その中で見えてきた地方DXの課題について、代表取締役社長の小野和也氏に同社設立の経緯や取り組み、地方DXの課題について聞きました。
小野 和也(おの・かずや)
いよぎんデジタルソリューションズ 代表取締役社長
2001年3月に香川大学経済学部卒業、同年4月に伊予銀行入行。21年10月に法人コンサルティング部、21年12月に総合企画部 持ち株会社体制移行準備室を経て、22年10月 いよぎんホールディングス経営企画部特任課長、23年4月から現職。
1979年1月生まれ。
支援期間は半年から1年
久原健司
これまでにコンサルされた企業の中で印象的な事例はありますか。
小野和也社長
従業員数100名超の食品メーカーのペーパーレスの事例があります。全国に拠点があり、稟議書や報告書など、年間2万枚くらいの紙を本社に送っている状態だったので、キントーンに申請のワークフローを一括してデジタル化しました。承認者側もクレームに対して早めに指示が出せるようになり、本社も現場も確認する作業がなくなっています。本社の書類の保管場所もいらなくなりました。もともとは申請業務の電子化を受けていましたが、3年ほどたち、今は13業務をキントーンで電子化しています。
会社の人に便利さを実感していただけると、次々とデジタルに置き換わり、長く伴走して業務改善する循環が出来上がります。ただ弊社もいつまでもお世話することはできないので、社内で選抜した改善BPRチームを作っていただいて、そこへ弊社のコンサルのノウハウを引き継いでいくステージに入っています。
久原
素晴らしいですね。DXで伴走支援をする時に、お客様から、「もっとこうしてほしい」「これはどうなんですか?」と聞かれると、やりがいがありますよね。会社自体のDXは、ずっと続けていただくことを目指していると思いますが、御社の伴走期間はどのくらいが目安ですか。
小野社長
基本的に支援期間は半年から1年が多いです。1年の契約終了後にあと半年とか1年続けるケースもありますので、理想的には2年くらいご支援させていただくと、ある程度軌道に乗った段階で我々は離れていけると感じますね。
久原
2年ぐらいあれば、内部の体制も出来上がってくると思いますが、半年で手離れすると、また戻ってきてしまうケースもあるのではないですか?
小野社長
おっしゃる通りです。そういったケースも出てくるとは思います。
事業承継がデジタル化のタイミング
久原
やはりいつの間にかあまり使わなくなって、デジタル化は必要ないと見なされてしまうケースも多いですよね。お客様でDXを進める中で困ることが3つあると思います。
一つは人がいないパターン。今新しいツールを入れるような人的余裕がないからやらない。
二つ目はやり方がわからないパターン。何をやっていいかわからない。
三つ目は費用対効果パターンです。
本当にお金がないわけではなくて、会社には例えば毎年1000万円くらい利益が出ているのに、仮に月額8万円だとして、それとツール代で月10万円、年間120万円出せばいいのに、費用対効果がわからない。そういう企業はいらっしゃいますか?
小野社長
多いと思います。久原さんが言うように「売り上げの1%くらいはIT投資に回しなさい」ということを、みなさんがもっと認知されると、我々も非常にありがたいです。
久原
これは統計的に出ているので、絶対やったほうがいいと思います。
小野社長
ただ、昭和の時代からずっと「紙」という業務インフラに頼って仕事をしてきている会社にとっては、老朽化している日本の水道管と一緒で、いずれ成り立たなくなるのがわかっているけれど、“きょうもまだ水は出るのでなんとか使おう”と思うのです。
我々もニーズの喚起を本来やらないといけないのかもしれないですが、そうして導入した場合に途中で挫折するケースがほとんどだと思います。導入した後は楽になるものの、短期的なストレスは上がってしまうからです。変化にはストレスが伴いますので、明確にその会社に目標がないまま、時代がDXだからとやり始めると、あまりうまくいかないと思います。
久原
経営者はやりたがるが、実際ツールを動かすのは経営者ではないので、担当者は忙しいし、結局は費用対効果という言葉が出てくる。逆に、例えば給料が上がるとか、残業がなくなるとか、在宅で仕事ができるといった成約につながる“キラーワード”はありますか?
小野社長
成約につながりやすいのは、事業承継のタイミングですね。世代交代するタイミングで社内の業務システムを刷新したいと思う会社はあります。たとえば、息子さんは東京の会社に勤めていて、ふつうにグループウエアなどのツールを使っているが、実家の会社はまだスケジュール管理をホワイトボードに手書きでしている。息子が継ぐにあたってはデジタル化していかないといけないという話になるとスムーズに進むと思います。
ただ、事業承継がらみでないとデジタル化しないという思い込みがついてしまうと、支店も逆にトスアップやニーズを拾うことができなくなってしまうので、うまくいく個別のケースをことさらに取り上げることはしていません。
久原
確かに2代目になってデジタル化が進むケースは多いですね。1代目の人が事業をつなげていくときに、借り入れの件もあると思うので、銀行に「そろそろ息子に継ぐことを考えている」というような相談されることもあるでしょう。
小野社長
感度が高い創業者の方は、息子に最初に社内を動かす仕事としてデジタル化をさせるということもありますね。息子に経営者の練習として社内の仕組みを根付かせるサポートをしてほしいとか、ご自身がデジタルに明るくなくても、息子が帰ってきて最初に宿題を与えようと思うので、失敗しないように手伝ってほしいという相談もあります。
久原
経営者の方が高齢になって事業をつなげていきたい時に、東京にいる息子さんに経営者の練習としてデジタル化をするという名目のもと、会社の情報や状況を知ってもらおうというコンセプトは、切り口としてきれいですね。
じつは銀行が地域のDXに対しては優れていると思います。経営者が最初に相談するのは、税理士か銀行だと思うので、この業務に関しては一歩抜きん出るだろうと思います。
小野社長
難しいところで、やる側には短期的な経済的メリットがあまりない話なのです。銀行法改正の趣旨自体は、地域の活性化や持続可能性の向上に資すること。今後、働き手が減るので、それを改善することは地銀グループの使命だと思っています。ただ、地方銀行が公益性と収益性を両立するのが非常に困難な問題で、中小企業のデジタル化支援は大手のベンダーがやらないマーケットをやっていると思っています。ほかにプレイヤーがいないと言われたら確かにそうですが、そのプレイヤーをやっていていいのだろうかと、当事者としては悩ましいところです。
久原
日本の中小企業の割合は99.97%で、7割が従業員30名以下といわれています。高齢の経営者も多いので、大手はやらないかもしれないですが、ぜひとも伊予銀行はじめ銀行の方にこういったことをやっていただくと非常に日本が良くなるのではないかと思いました。 DXのタイミングは10年後ではなく、高齢者の方々が引退される前、今のうちに彼らの頭の中に入っているさまざまなデータをデジタル化しておかないといけないはずです。国も今やりましょうという話になっていますね。
小野社長
国にもいろいろな施策で応援していただいていますが、弊社としては、じわじわと個別のお客様が一歩一歩進んでいけばいいのではないかと思っています。伊予銀行の約4万社の取引先のうち、これまで弊社が相談を受けているのは2000社ほどなので、コツコツお客様のやりたいことを大事にしていきたいと考えています。
売り上げや収益に貢献するDXへ
久原
これからの目標や抱負を教えてください。
小野社長
本当に経済産業省のいう文面通りのDX、データとデジタル技術の活用を目指していかなければと思っています。データの分析に関しては、銀行の中にある専門のチームの知見を借りながら、外向けにどういった分析の活用ができるかといったステージを今後検討していく必要があります。今は業務効率化や生産性改善の段階ですが、今後は売り上げや収益に貢献するという付加価値を付けていくことが求められるのでないかと考えています。 我々も持続可能な収益が得られるようになることも必要です。また、ChatGPTやAIといった技術も組み合わせていく必要もあるかもしれません。我々は情報量も少ないですし、できることは限られているので、いろいろな方との連携やマッチングを通じて、お客様に価値提供する手段を増やしていかないといけないと思っています。