【インタビュー】中小企業のDX推進状況と今後のAI活用について第1回 日本のDX推進が進まない理由

2024.02.21
第1回 日本のDX推進が進まない理由

文系出身のプログラマーとしてキャリアをスタートさせ、日本マイクロソフトで業務執行役員を務めた後、現在は自分で会社を経営しながら数々の大企業の社外取締役や顧問も務める澤円さん。DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど、幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングを行っている澤さんに、中小企業のDX推進状況と今後のAI活用についてお話を伺いました。(4回シリーズの第1回)

澤 円(さわ・まどか)
株式会社圓窓 代表取締役
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社)/『メタ思考~「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)など。

撮影:鹿野貴司

DXを本気で進めようとしているところはない

久原健司
僕はDXに関する講演会を行っていますが、特に地方の企業においてDXの導入が進んでいないというのが正直な所感です。社員が50名以上いる企業では、ある程度始まっていますが、少なくとも20名以下の企業はまだ手を付けられていないですね。

澤円氏
僕は大企業から中小企業まで見ていますが、正直進んでいるところはないですね。正確に言うと、本気で進めようとしていないと思います。今もうまくいっているから、次の代でやればいいと思っているかもしれないですが、それなら今すぐ次の世代にバトンを渡してほしいですね。

久原
まさに世代交代したところは、少し動き出している印象です。しかし、世代交代がないと企業は動かないのでしょうか?


そうでなくても動かすことは可能です。もっと言うと、世代交代したとしても、同じことになる可能性は十分あります。だから、まずは現状を把握しましょう。そもそも「DX」というキーワードを無条件に受け入れすぎているんです。歴史上、日本のITは常に同じことを繰り返しています。「ダウンサイジング」や「クライアントサーバー」、「社内ネットワーク」、「グループウェア」など、ITベンダーが出すマーケティングメッセージを全部そのまま受け取って、やらなければと言いつつ、結局やらずに終わってしまう。まるで「趣味ダイエット、特技リバウンド」のようなものだから、真剣に取り組まないのです。でも、内需は一定程度存在し、人口も1億人以上いて、日本語だけで十分マーケティングが行えるので、とりあえずは生きていけます。しかし、それでは国が貧しくなるのは明白ですよね。

久原
そうなんですよね。

中小企業も大企業もボトルネックは人のマインド


これを喫緊の課題として感じにくい状態が、一番問題だと思います。これは中小企業も大企業も、中央省庁も自治体も全部同じです。僕は今、8社プラス大学1校、9つの組織と何らかの契約を結んでお付き合いしていますが、32万人以上いる組織から7人のベンチャー企業まで、全部課題は同じだと思います。結局、ボトルネックになってくるのは、ツールでも、社会の問題でもなく、人のマインドです。本人が当事者として、どうにかしたいと思わない限りにおいては、前に進みません。さっき、ダイエットの話をしましたが、みんな何のためにダイエットするのでしょうか?

久原
僕は美と健康のためです。


美と健康を手に入れると、何がいいですか? モテたいですよね。それが本音で求めているものなんですよ。本気でモテたいと思ったら、食事を抜いてでも痩せようと思いますよね。そこそこでいいかと思っていたら、多分ダイエットなんてしないでしょう。困ると思っていないなら、やらなくてもいいのですが、その代わり、何かの波が来て飲み込まれたとしても、その時には受け入れなければいけなくなります。

撮影:鹿野貴司

久原
何が起こると考えられますか?


競合となるような商品が海外からやってきて、自分たちが作っているものが全く相手にされなくなるかもしれません。でも、そうなったとしても自己責任とされてしまいます。今でもそうですよね。

目的を進めるためにデジタルの要素が必要になる

久原
今でもそうです。それで、それが致命傷になるところ、DXには可能性があるという話なんですよね。でも、中にはやったふりというか、ちょっとデジタル化を進めただけなのに、「DXをやっています」と言ってしまうところも見受けられます。海外からすごいサービスが出てきたら、潰れてしまう可能性はあるんですけれど、もし澤さんが従業員50人ぐらいの企業の社長だとして、DXを一生懸命進める派ですか? それとも今の流れで乗り切ってしまう派ですか?


DXを進めるのではなく、自分の事業を大きくしたいのか、それとも多様化させたいのか、という目的があって、それを進めるときには必ずデジタルの要素が必要になるはずです。人海戦術では立ち行かなくなったときに、どの部分に何をすればもっと良くなるのかを考えましょう。効率がよくなるかもしれないし、スケールが進むのかもしれないし、より一層強靭になるかもしれないけれども、そのためにデジタルで何ができるか考える。そういうマインドで向き合うことになると思います。

久原
例えば事務員が結構高齢で、もしかしたら抜けてしまうとか、介護でいなくなってしまう可能性があるとしたら、事務のところはほぼ自動でやろうという考えも出てきますよね。


もっと言うと、高齢だから抜けるだけでなく、全員抜ける可能性があります。若い人も、もっといい給料のところに行くかもしれない。そう考えると全部の年代に言えるので、誰が抜けてもいいようにすることが経営者の責任ですよね。

久原
そこなんですよね。経営者はもちろん、人が辞めないようにするのも大事ですが、辞めた時に事業が立ち行かなくなるような状態を作らないことが重要ですよね。僕自身いつもそこに怯えながらも、仕事が属人化して資料はこの人しか作れないといった状況を放ってしまっています。

データ化しておかないとビジネスが存在しない状態に


リカバリする覚悟があればいいのですが、そのようなリスクがあるなら、事業が立ち行かない状態を避けるためには何をすればいいか考えましょう。例えば、あらゆるものをデータ化しておくのは非常に重要ですね。データ化したら、基本的にはクラウドに保存して失われない状態にしておく。そうすれば、いつでもリカバリができる状態になります。

エストニアの電子政府は、国土が奪われたとしても国民として存在できるというコンセプトで成り立っています。なぜなら、ロシアに2回、国土を奪われた経験をしているから、それが二度と起きないように備えているのです。要はそのような状態をどうやってデジタルの力で作っていくかという話です。

僕は「田村淳のTaMaRiBa」(テレビ東京)という番組に出させていただいていますが、先日の放送で沖縄の三線の演奏者や製作者が後継者問題に直面している話題を取り上げました。例えば、音をデジタルにして再現可能な状態にすることや、動きをロボットに覚えさせたり、バーチャルリアリティの世界で代理にやらせておくことで、世代間の断絶をデジタルの力でカバーできる可能性があるんですよ。

撮影:鹿野貴司

久原
そうですね。そうすれば、なくなりはしないですね。


やっている人はいないけれど、データは存在するので、そこに興味を持った人が現れたら、ギャップはデジタルで埋めることができます。ですから、中小企業の方々は、残したいと思うものはデジタル化し、間が空いたとしても誰かが引き継ぐことができるようにしたり、間が空いている間に事業がしばらく自動的に継続できるような仕組みを作ったりできるのではないかと思います。

業種業態によっては、対面でないとできないものであれば、難しいかもしれません。でも、楽天に出店している中小企業・零細企業には高齢の方も多くいますが、DXの話をする際は、データを残しておいたら何とかなると話しています。現代では、データ化されていないと存在しないことになってしまうのです。新しいレストランを見つけた時、ほとんどの人がいきなり入るのではなく、まず検索しますよね。

久原
そうですね。


Googleの口コミを見て、その口コミがあまり良くないと、目の前に店があるのに入って確かめたりはしない。口コミを信用して入らないんですよ。もっとひどいのは、目の前にあるのに検索に引っかからなかったり口コミがなかったりしたら、店自体がなかったことになってしまいます。

久原
星のマークが確認できないと、存在しないことになりますね。


そう、口コミがゼロだと、目の前にある店は消えてなくなってしまうんです。

久原
確かに口コミゼロでは、ちょっと怖いと思ってしまいますね。


今はみんなデータを信用するので、データ化しておかないと、今後は確実にビジネスが存在しない状態になっていきます。飲食店はすでにそうなっているので、たくさんの星がついていると、とても交通の便の悪いところにある店でも行列ができたりするんです。

久原
確かにそうですね。僕もそうです。「この店に入ろう」と思ったら、まず口コミをチェックします。何かいわくつきじゃないのかとか、今はちょっと調べたら、すぐわかりますから。

(第2回へつづく)

あわい こゆき

あわい こゆき

ライター。主に女性のライフスタイルをテーマに執筆。一般の人から芸能人、文化人、企業の社長、政治家まで幅広く取材しています。