【インタビュー】中小企業のDX推進状況と今後のAI活用について第2回 デジタル技術は時間と空間の問題を解決してくれる

2024.02.26
第2回 デジタル技術は時間と空間の問題を解決してくれる

文系出身のプログラマーとしてキャリアをスタートさせ、日本マイクロソフトで業務執行役員を務めた後、現在は自分で会社を経営しながら数々の大企業の社外取締役や顧問も務める澤円さん。DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど、幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングを行っている澤さんに、中小企業のDX推進状況と今後のAI活用についてお話を伺いました。(4回シリーズの第2回)
第1回 日本のDX推進が進まない理由

澤 円(さわ・まどか)
株式会社圓窓 代表取締役
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社)/『メタ思考~「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)など。

手遅れになる前にワーストとベストを想定しておく

久原健司
DXが進まない理由を深く考えても、自己責任なので仕方ないですね。ただ、DXに興味がなくても、最近また新しい言葉としてChatGPTのようなものが出てくると、興味を持つ人もいます。実際、僕もChatGPTをかなり使っていますが、生産性は飛躍的に向上しています。ですから、人に「すごく良いよ」と勧めるのですが、やはり行動に移さない人ばかりです。代わりにプロンプトを提供して結果を見せても、「すごいね」と言われて終わってしまいます。これも同じような話ですよね。結局、困っていないから、DXが進まない。

澤円氏
困っていないというより、困りごとを言語化できていない人には何を言っても理解されないかもしれません。「あなたはこうしたほうがいいよ」と言っても、困ってからでは遅いことがほとんどです。例えば「健康は金で買える。ただし、健康なうちだけ」という言葉もありますが、健康なうちに買っておくから健康を維持できるのです。健康を害してから健康を買おう思うと、非常に高額になることもありますし、場合によっては買うことができません。

撮影:鹿野貴司

久原
買えないですね。もうステージ4などと言われている場合は、無理かもしれません。


例えば、暴飲暴食を繰り返していても、健康診断ではDにはなってない。「Cだから大丈夫だ」と言っていると、そのうちオールDになってしまったりすることもあるので、もうそうなったら、一生懸命毎日野菜を摂っても、ほぼ手遅れになってしまいます。だから、健康を害した時に備えたほうがいいという話ですね。さまざまなことを想定して、その時のワーストとベストを考えましょう。

ベストは、その時の社会情勢や顧客の動向によって変わるので、現時点でのベストと考えておいて、ずっとアップデートすることが必要です。ワーストは割と一つ定義してもいいと思います。例えば、事業が潰れたり、社員がいなくなったり、売上がなくなったりするといった状況です。では、それに対してあなたは何をしますか? そこでできない理由を並べるのであれば、ワーストに行ってしまう覚悟をする必要があります。社員に退職をしてもらうように退職金を前払いしてもいいかもしれません。そうしたら、たぶん次の日から誰も来なくなるでしょう。

外野の話は聞く必要がない

久原
僕も一回経験があります。2008年に、アメリカでリーマンショックがあり、ITの仕事が一気になくなりました。会社をどうしたらいいか悩んでいると、社員たちが急にゲームを作りたいとか、破茶滅茶なことを言い出しました。話し合った末に、退職金をたくさん出すから次の人生に向けて活動してほしい、ということで納得してもらったのです。転職した人、フリーランスになった人、専門学校に行って再就職しITの業界から離れた人もいます。本当に覚悟して退職金を渡したのに、社員の奥さんの中には怒っている人もいました。僕だけ会社に残っていい場所にいると思っているんです。僕も一番つらい状態だったのに、自分だけ甘い汁を吸っていると思ったようです。


今の話も実はDXの話につながるのですが、外野の話は聞く必要がありません。

4象限で表すと、このようになります。コントロールできる、できない、重要・緊急か、そうじゃないか。それでいうと、今の話は左下です。コントロールできないし重要度も低い、経営には関係ないことですから、そこに目を向けるのは無駄なので、まずやめましょう。

一番大事なのは右上です。重要ですし、自分でコントロールできるから。ポイントは右下、重要ではないがコントロールできる。これは余力があれば、積極的に取り組むと徳を積むことになります。人の手伝いをすると困った時に助けてもらえるでしょう。問題は左上。コントロールできないけれど重要だということを、ほとんどの人が解像度荒く見るんです。

少子高齢化が進んで、この地域は人口が減ってきているから、商売がうまくいかない、と言われることもありますが、少子高齢化が進むことと、その人の売上が上がらないことの相関関係は必ずしも高くはないかもしれません。顧客候補はその地域に限らず、広範囲に存在する可能性があるのです。ネットの力を活用してマーケティングを行い、新たな展開を図るなど、さまざまなアイデアが考えられます。デジタル技術は時間と空間の問題を解決してくれるので、そこでDXを取り入れればいいのではないでしょうか。

好きになれない人に時間を使う必要はない

撮影:鹿野貴司

久原
コントロールできないところは、諦めてしまいがちですが、重要な箇所は諦めないで、もう少し丁寧に取り組むこともできるのかなと思いました。相手をよく見ることが大事とわかっていても、なかなか好きになれない人のことは見るのは難しいです。


好きになれない人に時間を使う必要はないと僕は思っています。ストレスがかかるものも大事だという人もいますが、嫌なものはやらないほうがいいですよ。パフォーマンスが上がらないことに向き合ったほうが良くて、嫌いなことが解決できないなら、好きな人と組んで、嫌いなものを切り離したほうが僕は効率がいいと思っています。

久原
僕もそう思っています。私の知り合いの会社では、よく一緒に飲む社員と仲良くなって、ついボーナスを多めにあげてしまうことがあったそうです。僕は、みんなを平等に扱っていたつもりですが、どうしても反応がいいほうに向かってしまうので、少し距離を取るようにしています。

(第3回へつづく)

あわい こゆき

あわい こゆき

ライター。主に女性のライフスタイルをテーマに執筆。一般の人から芸能人、文化人、企業の社長、政治家まで幅広く取材しています。