【インタビュー】中小企業のDX推進状況と今後のAI活用について第4回 AIが仕事を奪うのではなく、AIを使いこなす人たちによって淘汰される

2024.03.06
第4回 AIが仕事を奪うのではなく、AIを使いこなす人たちによって淘汰される

文系出身のプログラマーとしてキャリアをスタートさせ、日本マイクロソフトで業務執行役員を務めた後、現在は自分で会社を経営しながら数々の大企業の社外取締役や顧問も務める澤円さん。DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど、幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングを行っている澤さんに、中小企業のDX推進状況と今後のAI活用についてお話を伺いました。(4回シリーズの第4回)
第3回「生成AI時代」の黎明期である今こそ、変わるタイミング

澤 円(さわ・まどか)
株式会社圓窓 代表取締役
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社)/『メタ思考~「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)など。

好きなものを発信すると情報のキャッチアップが可能

久原
僕もChatGPTのさまざまな情報を集めていますが、時代の進むスピードが速すぎて、情報を集めきれません。そんな時に、「俺、最先端に行けていないな」と思って、一回ブレーキを踏んでしまうことがあります。そういうことを考えず、人に聞かれた時には「最先端じゃないけど、ここまでは知っているから、ここまで教えてあげるよ」というふうにすればいいのでしょうか?


「最先端」というのは相対的なもので、これが最先端というものはないというか、見たことがある人はいない世界だと思います。例えば宇宙に果てがあると言うけれど、見たことある人はいないですよね。理論上の話なので、ないと言っても否定する材料は多くないですね。だから、最先端だと言ってもいいし、逆に最先端だと言い切れないということを受け入れるといいと思います。

久原
つまり、「私はこれが好き」ということだけで十分なんですね。「これ、面白くない?」「これだったらもっと便利だよね」と、思ったことを言ってしまえばいいんですね。


そうそう。そのうえで、もっと面白いものがあるかもしれないというバイアスはかけておきましょう。いわゆる「カラーバス効果」で、意識をしていると、その情報が入りやすくなります。僕は割と「最新のガジェットが好きです」「最新のITが好きです」「企業系のITサポートソフトが好きです」という情報発信をしているから、「澤さん、これ知っていますか?」「ちょっと面白いものがあるけど、見ませんか?」という話が集まって来るんです。それでキャッチアップすることができていると思います。

撮影:鹿野貴司

久原
なるほど。では僕は、「〇〇に興味があります」と発信するといいんですね。


「これ好きなんだよ」と言っていると、「これ見ましたか?」と教えてもらえるので、結局好きなものが集まってくると思います。僕は「そばが好き」と発信していたら、お中元などで、たくさんそばが届きます。接待のときも困らないですよ。

AIが仕事を奪うのではない

ライター
AIによって、人間の仕事が減るといわれます。特にライターのような仕事は、なくなる可能性がある仕事だといわれています。


よく言われますが、AIによって仕事がなくなることはほとんどないと思ってます。ただし、AIを使いこなせない人たちは仕事なくなるんです。だからAIが奪うのではなく、AIを使いこなしてライティングの仕事ができる人たちに奪われるんです。

AIを使いこなしてライティング仕事ができる人に全部仕事がいってしまいます。そして、その人は、あっという間に10人分ぐらいの仕事をこなすことができるのです。だから裏を返すと、AIを使いこなして自分のライティングスキルと融合させることができれば、もともとライターをやっていた人のほうが圧倒的に有利なんです。今から始めるなら、オリジナリティも残すことができるし、使いこなしてライティングをするスキルは、今の時点では持っている人があまりいないので、それを教えるビジネスもできます。今だったら、それを情報商材にして販売すれば、億万長者になれるかもしれません。

ライター
まずはAIを使いこなすために練習しないといけませんね。ChatGPTで「文章を要約して」とか、「〇〇について知りたい」など、試してみてはいますが、なかなか思ったような文章にならないし、欲しい情報が集まらないので、まだ全然うまく使えていない状況です。


それはトライアンドエラーをしたり、プロンプトの概念を知って、AIを育てなきゃいけないんですね。AIができない時点で使いこなしていない。要するに車に乗って一生懸命アクセルを踏んでいるけれど、前に進まないようなものです。まずエンジンをかけて、ギアを変えて、サイドブレーキを下ろして、それからアクセル踏むということを知っていれば、進むことができます。進め方を知っているかどうかの話なんです。だから、AIで仕事がなくなるわけではないというのが僕の意見です。ただし、AIを使いこなす人は10人分100人分の利益を手にする可能性があるから、その人は一人で多くの仕事を持っていくかもしれませんね。

撮影:鹿野貴司

久原
とにかく何でもかんでも自分の仕事で、AIを使ってみるということですか?


そうです。やってみることです。僕が今このポジションで好き勝手に生きていられるのは、とりあえずやってみることを実践しただけなんですよ。どれもこれも、僕がトップでもなんでもないんです。ChatGPTも通りいっぺんのことしかやっていません。でも、触り始めたのが早いんです。ある程度知ることができると、また情報が集まってくるので、また新しいものを試してみる。これを繰り返しているんです。

久原
先行することで、自然と情報が集まってくるんですね。


そうです。そんなことをやっていたら、メタバースの会社から顧問になってほしいと頼まれました。ロボティクスの文脈でも、日立の「Lumada Innovation Evangelist」を務めているので、専門家がいろいろな情報を提供してくれます。このように「面白がられること」もポイントです。どんなにAIやDXが進化しても、面白がられる人のところには仕事がやってくるので、生き残ることができます。

久原
「面白い」というのもまた抽象的なもので、人によって解釈が違いますよね。

「習熟」から「成熟」へシフトしないと生き残れない


今後は抽象的な部分をコントロールできる人が生き残ります。「具体」と「抽象」があって、具体は「習熟」で、抽象は「成熟」だと僕は定義しています。具体は習熟で評価につながり、抽象は成熟で継続につながります。

もっと具体的な話をすると、野球選手に例えるとわかりやすいです。「野球がうまい」と言ったとしても曖昧すぎて、プロ野球で高い年俸をもらえる選手とは言えないので、何ができるかという具体が求められます。「彼は4番打者でホームランを年間に40本、毎年打っている」というと具体になるので、評価につながります。これは習熟です。40本もホームランを量産できるような習熟が行われると評価につながる。ただ問題は、引退後に引き継げないことです。

撮影:鹿野貴司

久原
そうですね。


「あの人が昔、ホームランを年間40本打っていた」という事実にお金払う人はいません。これがプロ野球選手の残酷なところで、それを抽象化することができていないと、残念ながら、その後が続かないんですね。抽象化とは、その時に求められる集中力の高め方とか、必要なセルフコントロールといったものです。成熟度が高くないと、そのような思考はできないんですよ。

スキルだけではなく、マインドやさまざまなアセットに対して思考することが成熟です。成熟すると引退後もそれを伝えられるので継続できます。例えば、元ハードル選手の為末大さんは、銅メダルを獲った実績で食べているわけではありません。彼はメダルを獲るために、ハードルを飛び越えながら速く走れるようになりました。今、彼はハードルを飛んでいますか? 講演会場でハードルを飛ぶことなど、誰も期待していないですよね。 彼は、なぜ銅メダルを獲るところまで自分を高めることができたのかを、経営などに活かすことをかなり早い段階で意識していました。だから、成熟度の非常に高い習熟したハードラーだったんです。彼の場合には習熟と成熟が同時進行だったから、引退後すぐにコメンテーターなど、ハードルとは全く関係ないフィールドにそれを生かせるような生き方を選べたのです。

久原
なるほど。習熟までいって、どこかで成熟にシフトしていかないと、生き残れないということですね。

多くのフィードバックを受けることでセンスが磨かれる


僕は、習熟と成熟を「スキル」と「センス」と言い換えています。たとえば10万円のシャツは、お金持ちでなくてもローンを組めば買えますよね。10万円のシャツはスキルなんです。デザインも素材もいいだろうし、シャツとしては完成度が高いです。でも、10万円のシャツだけを着て出歩いたらどうなります?

久原
ダメですよ。大変なことになる。普通に通報されますよ。


普通にダメですよね。せめてパンツくらいはいたほうがいいですね。10万円のシャツを持っていれば、それだけで何でも大丈夫というわけではない。ただ、シャツは買おうと思えば誰でも買える。つまりスキルは、時間はかかるかもしれないけれど、ある程度までは誰でも到達できるともいえます。

そして、成熟です。10万円のシャツは、おしゃれだと言われる要素としては強いですが、それを生かすためにまず大事なのは自分のワードローブに何が入っているかを知ること。そのシャツと合うジャケットを、パンツを、靴を持っているかを知っていると、そのチョイスを生かすことができます。これがセンス。組み合わせなんですよ。

そのセンスは何によって磨かれるかというと2通りあります。まず、自分で磨くためには、自分の全身を見ることができる姿見が必要です。これはファッションインフルエンサーのMBさんも言っています。おしゃれになりたいなら足先まで映る姿見を買いましょう。そうしないと、上側が映る鏡だけで済ませている人は、靴がダサくなってしまいます。全体のコーディネートがわかっていないから、茶色いベルトに黒い靴を合わせてしまったり、おかしなことをやってしまうけれど、全身が映る鏡を見たらセルフチェックができます。

もう一つは多くのフィードバックを受けること。そのためには外に出なきゃいけません。その服を着て外に行って、「それいいね。髪の毛もちょっと変えたほうがいいんじゃない?」と言う人が来るかもしれないし、「そのシャツが好きなら、あそこの店もいいよ」と別の提案をされるかもしれない。他者からのフィードバックを受ける場に自分を置くことは、次に大事なことです。これでセンスは磨かれるんですよ。

だからDXとAIの話に戻りますが、まず自分たちで考えているのは、シャツだけを着ている状態です。それで外に出ると、そんなものは通用しませんよ、というフィードバックを受けます。ですから、なるべく早く行動して、早めに失敗するために、少しずつ外界からのフィードバックを得られるようにしておくんですね。

例えば、いきなりシャツ1枚だけ着て、ほかに何も着ずに表参道を歩くのはまずいとしたら、まずは家に人を呼んで、「これどう?」と聞いてみてもいいでしょう。「そのシャツは素敵だけど、まずパンツをはこうか」というところからスタートになるし、失敗が小さくて済みますよね。その時の被害は、来てくれた人に軽蔑される程度です。そういうことを積み重ねていって、「これならいいんじゃないかな」と思ったら、今度は外界に出て試してみるといいでしょう。実際に表参道に行くと、もっとオシャレな人がいっぱいいるとショックを受ける。でも、それを次に活かせばいいんですよ。それは大失敗ではないし、それで終わりということではないのです。

AIを使いこなす人たちによって淘汰される

撮影:鹿野貴司

久原
澤さんが自分の能力を確認する時は、どのような手法で確認しますか? 僕は自分の能力を自分で正しく見られないんです。僕の場合は、背が高いこと一個だけはわかっているんですが、それ以外はよくわかりません。


僕の場合は、アウトプット量が普通の人とは全然違います。講演会や人前で話す機会も全部プレゼンテーションにカウントしていますから、年間300回以上人の前で話しているんです。そうなると、たくさんのフィードバックをもらうことになります。300回分のフィードバックを得る機会を作り、それに加えてメディアにも出るし、Voicyで毎日配信をするし、本も書いています。アウトプット量が多ければ多いほど、フィードバックの量も比例して増えていくんです。それに、アウトプットすることを生業にしている人たちの複数のコミュニティに参加しているので、そこで彼らと話をすることによって自分を高めたり、刺激を受けたりすることができます。

そこですごく大事なのが、もはや僕は否定されにくくなってしまっていることです。年もある程度いっているし、複数のコミュニティに入っているから、ここでは微妙かもしれないけど、たぶん別の場所ではいいんだろうという解釈をしてくれるようになっている。ありがたいことに、みんな僕に優しくしてくれるんですね。

だから、自分に対して批判的であることが同時に必要です。幸いなことに、僕は自己肯定感が非常に低く、自己嫌悪が強い人間なので、うぬぼれることができない。これがセーフティーネットになっています。

久原
僕はどちらかと言えば、自己肯定感が少し高めで、それが問題だと思っているので、いつもChatGPTに「僕の発言や考えた方に対して否定してくれ」「僕の意見のどこが間違っているか言ってくれ」と言っています。常にChatGPTに自分の意見のおかしいところを指摘してもらっています。


あとは、読み取る方法ですよね。相手の反応が自分の思っているのと少し違った場合、それは別にエラーと思う必要はないけれども、何がずれていたのか考えることが大事です。

久原
よくあります。たとえば「優しい人」といっても、僕にとっての「優しい人」と相手の「優しい人」の意味がずれていると、話がずれたまま進んでしまうんですよね。


相手に合わせることが自分を幸せにすることとは直結しません。AIやDXというキーワードも同様で、それに合わせて何かをすることが自分を幸せにすることと直結するかどうかは別問題です。だから、別に使いたくなければ使わないのもいいんじゃないですか。ただし、ビジネスをスケールさせたい、売り上げを上げたいという時に、デジタルの力を使わなければ、今の世の中では無理ですよ。

久原
だから、それは、こんな便利なものがあって、みんな使っているんだから、やったほうがいいんじゃないですか、という最初の話に戻りますね。


AIによって中小企業はどう変わるのか、ということの結論は、本人たちが変わるつもりがなければAI自身には変える理由が何もないですから、使いこなす人たちによって淘汰されるでしょうということです。

あわい こゆき

あわい こゆき

ライター。主に女性のライフスタイルをテーマに執筆。一般の人から芸能人、文化人、企業の社長、政治家まで幅広く取材しています。