【インタビュー】中小企業のDX推進状況と今後のAI活用について第3回 「生成AI時代」の黎明期である今こそ、変わるタイミング

2024.03.04
第3回 「生成AI時代」の黎明期である今こそ、変わるタイミング

文系出身のプログラマーとしてキャリアをスタートさせ、日本マイクロソフトで業務執行役員を務めた後、現在は自分で会社を経営しながら数々の大企業の社外取締役や顧問も務める澤円さん。DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど、幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングを行っている澤さんに、中小企業のDX推進状況と今後のAI活用についてお話を伺いました。(4回シリーズの第3回)
第2回 デジタル技術は時間と空間の問題を解決してくれる

澤 円(さわ・まどか)
株式会社圓窓 代表取締役
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、日本マイクロソフトに転職、2020年8月に退職し、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。武蔵野大学専任教員。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。 著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)/『「疑う」から始める。これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム社)/『「やめる」という選択』(日経BP社)/『メタ思考~「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)など。

生き残ろうという意思がある人を支援したい

澤円氏
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のレポートによると、アメリカではICT人材の約65%は事業会社側にいて、約35%はITベンダーにいるそうです。そして、ITベンダーのほとんどがプラットフォームを持っており、さまざまなサービスを提供しています。一方、日本ではICT人材の約75%がITベンダー側にいて、そのほとんどがプラットフォーマーではなく、御用聞き営業をしてデスマーチを好んで受け入れるようなSIベンダーばかりです。

結局、問題は、事業会社側が外部に丸投げしてしまって、全くITに関する知見を持っていないことだといえます。その状態は各事業会社のトップの責任です。丸投げすることを、ずっと良しとしていたのだから仕方がない。でも、トップは「うちには、今は人がいないんだからしょうがない」などと言ってしまう。世の中、これだけデジタル化が必要だと言い続けているにもかかわらず、30年たってもこの状態です。

久原
1995年くらいから、みんな言い続けていますね。


30年間で、これほど世界が変わってデジタル化されてきているのに、なぜやらなかったのでしょうか? 巻き返すなら今すぐ取り組んでください。今、すごいチャンスなんですよ。生成AIは、まだ出て2年くらいですから。機能的にどんどん優れてきて、去年のChatGPTが出てきたあたりから、閾値を明らかに超えてしまったというのが業界の共通認識です。その後、GPT4の登場までのスピードには本当に驚愕しました。

撮影:鹿野貴司

久原
早かったですね。


え、もう出るの? という感じでした。報道機関は、「ChatGPTは嘘をつく」「これはダメだ」などと報じていますが、僕は生成AIを使いこなしてビジネスで生き残ろうとするところには全力でサポートします。でも、その気がないところは申し訳ないけれど、構っていられません。

久原
確かに、そのようなところに構っている時間はないですね。


僕、マイクロソフト時代はベンダーだったので、誰に対してもお客様として接しなければいけない立場でした。でも、この人たちは生き残れるのか、冷静に観察していました。残念ながら、生き残る気のない人が経営をしていては、おそらくうまくいかないと思います。今はお客さんを等しく扱う必要がないですから、生き残ろうという意思がある人に対して、僕は支援したいと考えています。

生成AI時代が幕を開けた今は、インターネットが登場した頃と似ている

久原
僕は、まだそこまでたどり着いていないですね。みんな等しくお客様です。ある程度は報酬が高いお客さんのほうに、お金で時間を切り売りしています。


僕は一人で事業を運営していて、時間も限られているし、年齢も年齢なので、自分で仕事や顧客を選べる立場にあります。

もし、変わろうと思うのであれば、今はまさにそのタイミングです。ChatGPTに代表される生成AIの時代が幕を開けて間もないので、インターネットが登場した初期の頃と非常に似ています。僕は1993年に社会人して働き始めたので、(Windows 95が発売され、インターネットが急速に普及し始めた)95年以前のビジネスを経験しています。もともと第一生命の子会社にいたので、IT企業にいながらにして、インターネットのある世界とない世界を両方体験できました。一度ある世界を知ってしまうと、ない世界に戻れないのです。インターネットがある世界の黎明期から、僕は絶対これは面白いことになると思って、すぐにパソコンを買ってネットサービスを駆使しました。

当時、多くの人々が言っていたのは、インターネットはビジネスには使えないということです。「こんな危ないものを使えるわけがない」「こんなものはオモチャだ」と。Windowsもそうでしたが、今やビジネスに欠かせないものになりました。当時からインターネットの可能性を感じていた人もいて、例えば、ジェフ・ベゾスがAmazonを立ち上げたのは94年です。

久原
94年ですね。

撮影:鹿野貴司


まだ一般にインターネットが浸透する前に、手書きの「Amazon」というタペストリーを掛けた部屋で仕事を始めた頃の写真が残っているんですよ。

久原
その写真は見たことがあります。かっこいいですね。


非常にかっこいいですよね。ジェフ・ベゾスが、あそこまで成功することを予想した人は少ないでしょう。三木谷浩史さんが楽天を立ち上げたのは97年ですが、会社を始めた時に「楽」に「天」国に行く会社だから「縁起が悪い」と言われたとか。創業当時の売上は30万円で、そのうちの20万円は自腹で物を買ったそうです。それが、まだ27年前。世界はこんなにも変化しました。

三木谷さんだって、最初は一人で始めたんです。でも、本気で始めたら世界は変えられるんですね。そこに行く気はありますか? だから、もしやりたいと思うなら、今非常にいいチャンスなんですよ。

生成AIをビジネスに活かせると思う人が成功する

久原
今、その言葉がすごく心に響いています。最初は日本に向けて言っていると思って聞いていましたが、僕に言われているような気がしています。


今、全員が初心者に戻っているんです。インターネットの黎明期も、僕は偉そうに言っていました。93年から95年までは全然ダメなエンジニアで、全く要領がわからなくて、なんでうまくいかないんだろうとずっと思っていたんです。COBOLという言語でプログラミングしていたんですが、まともに動かない。なんで僕はエラーのあるプログラムしか書けないんだろうかと思っていました。ずっとそういう状態だったのが、95年に全世界同時リセットがかかって、インターネット時代がやってきた。でも、当時のどんなに優秀なエンジニアも、TCP/IPというプロトコルは知っていても、「インターネット時代」は経験していないんですよ。つまり、全員初心者になったということです。

生成AIに関しても、AIのアルゴリズムを理解している人はいるかもしれませんが、「生成AI時代」は誰も知らない。これから作るからです。それならば、今、手をつけて何かビジネスに活かせると思う人が成功する可能性があります。ですから、今のうちにチャレンジするのがいいのではないでしょうか。

僕自身は、自分で事業を起こすことには全然興味がないんですが、自分で事業を起こして成長させたい人や、世の中を変えたいと思っている人を応援するのが大好きです。その時に最新のテクノロジーを使いたいと思ったら、少し知見があるのでデジタルで実現するのを手伝いますよ。相手の年齢や性別、社会的なポジションは関係ありません。

(第4回へつづく)

あわい こゆき

あわい こゆき

ライター。主に女性のライフスタイルをテーマに執筆。一般の人から芸能人、文化人、企業の社長、政治家まで幅広く取材しています。