【インタビュー】不動産売買におけるデジタルの必要性とは?GOGEN株式会社に聞く(前編)

2024.03.12
【インタビュー】不動産売買におけるデジタルの必要性とは?GOGEN株式会社に聞く(前編)

不動産売買のDX推進、UX創造に係るサービス等の企画・運営、各種コンサルティングを手掛ける2022年創業のスタートアップ企業「GOGEN株式会社」は、不動産売買に特化した電子契約サービス「Release(レリーズ)」の提供や、手付金が不要となる住宅購入支援サービス「ゼロテ」の開発、ChatGPTを活用したマンション管理向けチャットサービス「Chat管理人」等の提供を行っています。代表取締役CEOの和田浩明さんに、創業した動機や不動産業界にデジタル化が必要な理由、今後のビジネスの可能性について、お話を伺いました。

和田浩明(わだ・ひろあき)
新卒で日鉄興和不動産株式会社に入社。分譲・賃貸マンションの用地仕入れ・開発マネジメント・商品企画・販売推進など住宅事業全般を経験。その後、経営企画・CVC運営・DX推進・広報などに従事。2022年2月にGOGEN株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。

人口減少社会ではデジタル化による挑戦が必要

久原
まずGOGENという会社の設立の経緯をお伺いします。なぜ不動産売買に特化した電子契約サービス「Release(レリーズ)」を始めようと思ったのでしょうか? 何か強いきっかけがありましたか?

和田
私は、もともと新卒で不動産業界に入り、約8年間、不動産デベロッパーで住宅開発やDX的なことも手掛けていたのですが、将来の不動産業界を見据えると、従業員不足や社会的な人口減少が商材とかなり直結するので、取引数も含めて見通しは10年後、必ずしも明るくないと感じています。効率化や生産性、新しい世代に合ったやり方といった側面から、デジタル化が必要です。しかし、不動産業界はリアルな要素が重要ですので、挑戦でもあります。

撮影:鹿野貴司

デジタル化するには、企業が自らの強みを築くための取り組みが不可欠です。ただ、不動産業界の特性上、差別化が難しい点も認識しています。例えば、宅建業法に縛られている重要事項説明など、消費者保護の観点から避けて通れない業務があるからです。銀行からローンを借りる際、どの銀行でローンが付くかという点では若干の差別化ができますが、それ以降の手続きは同様であることが多い。こうした差別化にならない部分に多くの人手がかかっていることが、業界の負担になっています。

デジタル化で解決可能な課題もありますが、不動産の場合は、不動産会社や顧客だけでなく、金融機関や保険会社、司法書士など、関係者が多いことも特徴です。差別化にならない一方で、デジタル化の余地が大きいからこそ、一社だけでデジタル化を進めるには限界があると感じました。

久原
本当にそうですね。社内向けの生産性向上などは可能でも、不動産業界全体でDXを進めることはかなり難しそうですね。

不動産取引をアップデートして住まいの満足度を上げる

和田
差別化を図れないものをデジタル化して、業界全体で共有する発想をしていかないと、みんな共倒れになっていく可能性があります。また、世代が変わっていく中で、今のお客様にとって親しみやすい、あるいはわかりやすい不動産取引なのかという点では、適切ではないかもしれません。デジタル化だけでなく、それ以外の面でもアップデートが必要なので、そこにトライをしたいと考えています。そうしないと、不動産取引の概念も変わっていかないと思うからです。

「モノ消費からコト消費」のように、時代によって価値観は変わっていくので、それに合わせてサービスもアップデートしていく必要があります。その中で、不動産取引を適切にアップデートしていくところにこそ、業界のポテンシャルを引き上げる部分があると思いますし、単純に私も一消費者として、こうなったらいいのに、と思うことはたくさんあります。何枚もの書類に記入しなければならないことなどを変えていって、人の住まいの満足度を上げていけたら、社会的意義は大きいと思っています。

撮影:鹿野貴司

この2点、不動産業界の中から感じた部分と、消費者の気持ちも含めて何かやっていけないかということが、創業に至った動機です。どういうことができるかを考えて、サービスが生まれました。

もっと気軽に不動産を買うことを考えるように

久原
デジタル化したら、企業にとっては自社の作業が楽になるので、かなりメリットがありますね。企業にとってのメリットは、現時点でかなり明確に見えていますが、一方で、お客様に対しては具体的にどんなメリットがあるのですか?

和田
不動産売買の手続きが圧倒的に楽になります。先ほど、何度も名前を書く必要があるという話がありましたが、法律上、本人確認は必ず行わなければなりません。これを一度提出して適切にデータの利用許諾が取られていれば、たくさんのプレイヤーが出てきても、共有されることで、お客様は1回の手続きで済むことになります。

また、例えば新しく物件を購入する際、自分の名前や住所も何度も記入したり、書類を提出する必要がありますが、それも郵送でするものもあれば、オンラインでできるものも混じっていたり、DXの壁のようなものが存在しています。たとえ不動産会社も金融機関もデジタル化したとしても、両者がつながっていないと、結局また二重に入力する必要が出てくることになります。逆にデジタル化せず、複写式の紙で書いたほうが早いということも出てくるかもしれません。

ですから、こういうことが積み重なっていると、我々は売買を主にやっているので、家を買ってよかったという人は多くて満足度は高いのですが、家を買う体験がよかったという人は少ないのが実情です。お客様は面倒くさいとか、よくわからなかったと感じています。

確実なデジタル化や最適化で、お客様の不動産取引に対する感想を変えていきたいですね。例えば、なぜメルカリが若い人に普及したのか。Yahoo!オークションがかなり前からあったにもかかわらず、若い女性が使っていなかったのは、UXの違いが一因だと思います。メルカリもYahoo!オークションもやっていることは変わらないわけですから、最適化によって、価値観の変化が十分に起こりうる余地があるのではないかと思っています。

撮影:鹿野貴司

久原
なるほど、確かにそうですね。不動産を買うことには、いろいろ面倒くさいことやイライラする瞬間があると思いますが、SNS認証や、Googleでチェックするだけで名前や住所が自動的に全部入力されるようなシステムがあれば、不動産の売買も格段に楽になると思います。

和田
家を買うことに対する躊躇には、自分の生き方を固定したくないという潜在的な気持ちがあるのではないでしょうか。でも、買うことでしか得られないメリットもあります。たとえば、壁に穴を開ける自由さといったことです。買うことのメリットと、住み換えの自由さを組み合わせれば、人々はもっと気軽に不動産を買うことを考えるようになるでしょう。

目指すべきは不動産業界の新しいスタンダードを作り出すこと

久原
リノベーションが流行っていることもあり、いまマンションの価格が高騰しています。少子高齢化が進む中、賃貸と同じように簡単に住み換えができるシステムを作ろうという思いは伝わりました。それが実現できれば、不動産市場はもっと活性化すると思います。そういった将来に向けた新しいサービスやビジョンがありますか? 購入手続きを簡単にすることで、不動産の売買が活性化されたら、その先に何が見えるのでしょうか?

和田
我々は取引のデジタル化に着目していています。デジタルで手続きをすると、お客様の取引データが全て残るのですが、所有者の証明とその変遷を記録する登記がまだデジタル化されていないので、それが変わらないと難しいでしょう。一方で、手前の取引データ、誰がいつどんな不動産を買ったのか、あるいは管理や修繕のデータ、住宅のスペックも可視化していけると、自分の所有している不動産の状態や資産価値が、非常に明確になってくると考えています。

株式のIT化と同じような話で、取引がデジタル化され、自分の所有しているものをしっかりと管理できるようになると、今後の売買や賃貸のプロセスがスムーズになり、新たな価値観の形成にもつながると思います。

久原
非常に面白いですね。効率化としてのDXに取り組む企業はありますが、外向けにサービスを行っているところは少ないのが実情です。やはり失敗したくないことが大きいので、なかなか難しいことだと思います。

撮影:鹿野貴司

和田
正直、いきなり一足飛びでいくのは難しい部分もあると思いますが、大手の不動産会社や長期的な視点を持つ企業とは価値観が合うと感じています。私たちが目指すべきは、不動産業界の新しいスタンダードを作り出すことだと思うのです。

一方で、全国に不動産会社は約2万社あるといわれています。不動産は取引額が大きいものの、件数は少ないので、売買が成立すれば大きな利益になりますが、成立しなければゼロです。それで生計を立てている現場のスタッフにとっては、大きなプレッシャーになります。課題解決のためには、各現場の具体的な問題に対するソリューションを考える必要があります。

私自身は、自分で直接お客様に販売するよりは新しい不動産を生み出していく側だったので、このまま作り続けていいのかと考えるようになりました。そうした自分のキャリアから、次の不動産業を考える方向に思考が向かっていったのだと思います。

顧客の体験を変えていきたい

久原
熱い思いに感銘を受けました。ところで、御社では「DXX(Digital Experience Transformation)」という造語を使われていますが、この言葉はどのような意味でしょうか?

和田
この言葉を通じて、不動産業界における新しい標準や価値観を築き上げていきたいと考えています。我々は特に「エクスペリエンス」、顧客の体験を変えていきたいという強い思いを示すために、あえて「DXX」という言葉を使っています。

久原
なかなかここまで本気で顧客や業界のことを考えて動いていらっしゃる人は少ないので、素晴らしいことだと思います。現在の御社のサービス、書類を簡単にする「Release(レリーズ)」があって、次のサービスを出していくような形にするのか、このサービスに機能を加えてアップデートしていくのか、今後はどのような方向性で展開していくのですか?

和田
まずはレリーズシリーズを伸ばしていきたいと考えています。レリーズシリーズでも、すでに3つのサービスがあり、それぞれが独立しながら連携していきます。

レリーズシリーズには下記の3つのサービスがあります。

1.手続の電子化と電子契約
起業当初からのサービスで、お客様が契約をされて以降の書類のやり取りやスケジュール調整をデジタル化することで、お客様との取引がスムーズになります。
2.デジタル本人確認
お客様の本人確認プロセスのデジタル化です。これにより、安全かつ迅速に本人確認が行えるようになります。
3.物件提案
お客様に最適な物件を提案するプロセスの改善です。多くの不動産オプションの中から、お客様のニーズに最も合致するものを選び、反応を踏まえながら営業活動を進めていきます。

3つのサービスは、データやIDの連携は基盤を作っているので、それぞれ単体で使っていただくこともできますし、データを連携させて一つの流れとして使っていただくことも可能です。

私たちの大きなテーマは、不動産取引と顧客接点のデジタル化です。不動産検索のデジタル化は進んでいますが、お客様と不動産会社との直接的なやり取りのデジタル化はまだ開発の余地が大いにありますので、この「空白地帯」を埋めることにより、売買フローのプロセスを改善し、顧客体験を向上させることを目指しています。今後も、既存のサービスの機能アップデートや、新しいサービスの開発によって、さらに多くのプロダクトを市場に提供していく予定です。

(後編へつづく)

あわい こゆき

あわい こゆき

ライター。主に女性のライフスタイルをテーマに執筆。一般の人から芸能人、文化人、企業の社長、政治家まで幅広く取材しています。