【インタビュー】地方DXの課題といよぎんデジタルソリューションズの取り組み(前編)

2023.10.28
【インタビュー】地方DXの課題といよぎんデジタルソリューションズの取り組み(前編)

いよぎんデジタルソリューションズ 代表取締役社長 小野和也氏(右)(聞き手:久原健司)

愛媛県松山市の「いよぎんデジタルソリューションズ」は、地方銀行の伊予銀行を中核とする、いよぎんホールディングスが2023年4月に立ち上げたデジタル化支援の新会社。生産年齢人口の減少が経営課題になるなか、地方のDXを進めています。
代表取締役社長の小野和也氏に同社設立の経緯や取り組み、地方DXの課題について聞きました。

小野 和也(おの・かずや)
いよぎんデジタルソリューションズ 代表取締役社長
2001年3月に香川大学経済学部卒業、同年4月に伊予銀行入行。21年10月に法人コンサルティング部、21年12月に総合企画部 持ち株会社体制移行準備室を経て、22年10月 いよぎんホールディングス経営企画部特任課長、23年4月から現職。
1979年1月生まれ。

いよぎんデジタルソリューションズ設立の経緯

久原健司
御社は地方銀行による中小企業のDXの支援をされているということですが、設立の経緯をお話しいただけますか。

小野和也社長
DXをうたっていますが、地方の中小企業はデジタル化のご支援が必要な段階で、まだデータ活用やデジタル技術活用による次のステップへいっていないのが現状です。いわゆるデジタライゼーションのところを主にお手伝いしているので、我々のDXは広義のDXということになります。
2年前に銀行法が改正され、銀行は不動産業以外であれば、当局の認可や届け出によって新たな業務ができるようになりました。いよぎんグループでは昨年10月に「いよぎんホールディングス」という認定銀行持株会社となっています。通常の銀行持株会社と違い、特定の事業においては届け出のみでスピーディーに会社を設立可能です。銀行以外の業務もやりやすい環境が整備されています。
まずは地域のお客様の役に立てることがないかという発想で、グループ内のリソースを見渡しました。中核子会社の伊予銀行では2018年からICTコンサルティングという形で、キントーンなどサイボウズ製品を活用したデジタル化のご支援を行うチームを立ち上げています。もう5年ぐらいになりますが、主に伊予銀行の支店担当者が取引先の課題をヒアリングし、支店からトスアップを受けてデジタル化をご支援する、主に課題解決型のコンサルティングを行ってきました。 人員は当初から4名程度で始め、現在は独立した会社となりましたが、人数的にはほぼ変わってないような状態です。

23年4月から、いよぎんデジタルソリューションズ 代表取締役社長を務める小野和也氏

久原
地域のデジタル化において、まずキントーンを導入しようという試みは他社でもありますが、なぜキントーンを選ばれたのでしょうか?

小野社長
今、サイボウズが提携している地方銀行は約20行ありますが、弊社の取り組みは5年前からで比較的早かったほうです。たまたまサイボウズの青野慶久社長が愛媛県今治市のご出身というご縁もありました。ノーコード、ローコードのツールを活用したコンサルティングであれば、システムプログラミングなどのスキルがなくても業務改善の仕組みをお客様に提供しやすいのです。
他にも、マイクロソフトのPowerAppsやGoogleの商品など、ノーコードツールはたくさんありますが、中小企業でも扱いやすく、国産で愛媛にゆかりもあるというところで我々はお勧めをしています。中小企業はイニシャルの投資に対する予算的な制約もあるので、月額で少ないライセンスから使い始められるという点も使いやすいと思います。

5段階の“伴走”で支援フロー

久原
お客様から助けてほしいと言われた時にスタートする形と、プッシュ型でいろいろな会社にキントーン売り込みに行く形、どちらのほうが多いですか?

小野社長
前者です。あくまで課題解決のコンサルティングで、課題に応じてご提案するものがキントーンやその他SaaSのツールだと理解をしており、最初からキントーン等を売りに行くことはありません。

申請業務や情報共有、顧客管理など、お客様のお困りごとに合わせて提案します。最終的に案件の半分ぐらいがキントーンでの支援になり、残りの3割が会計や人事労務で、フリーやキングオブタイムなどの導入支援、残りの2割は、そういったツールでは解決できないお客様特有の課題に、個別に業務分析などをして、解決法を提示します。

採算やビジネスの持続可能性から見ても、SaaSだけで解決の難しい面があるため、最終的には個別対応の能力を強化していきたいと思っています。

久原
御社の実際のDX支援の流れを教えていただけますか?

小野社長
課題の整理・洗い出し、改善策のご提案、改善策の実行、導入サポート、導入後のフォローという5段階で進めています。まず、基本的にはヒアリングを中心に課題の整理と洗い出しをします。それぞれの課題に対して優先順位をつけ、優先順位の高いものから改善策のご提案、その後、改善策の実行として実際の業務フローの見直しなどを行います。例えば販路開拓に課題があり、ECサイトを作りたいという場合は、提携の事業者様をご紹介することになります。
キントーンやフリー、キングオブタイムといったツールで解決できる場合は、初期設定や従業員向け説明会、日々の操作方法のご説明といった導入サポートをします。それが終わりましたら、運用の定着化ということで導入後のモニタリング、導入後の継続支援、伴走支援もしています。

久原
ヒアリングは定型のヒアリングシートを使われているのか、お客様のリテラシーに合わせて柔軟に対応しているのか、どちらでしょうか?

小野社長
専門知識のない支店の行員でも課題を事前に集約することができる「お客様課題チェックシート」を作っています。それが弊社に上がってきてからは、定型フォームはなく、担当社員がそれぞれの項目に応じて細かく聞いていきます。

久原
課題の優先順位をつけるのは担当社員の方ですか?

小野社長
優先順位をつけるのはお客様という認識です。課題を洗い出した後、お客様の優先順位を確認して、こちらで整理はしますが、優先順位はお客様につけていただきます。

久原
なるほど。例えば勤務票にも請求書にも課題があるとなった時に、いずれかのSaaSを導入して改善していくのが一般的だと思いますが、SaaSの種類によってはお客様のリテラシーに合わないとか、もっと簡単なSaaSの方がいいとか、手数が少ないものがいいということもあるのではないでしょうか? 
その場合、基本的にはお客様が選ぶとはいえ、社員が誘導していくことはありますか?

小野社長
基本的には、お客様が課題に思っていらっしゃる気持ちの強さややる気が優先されます。そうでないと、途中で止まってしまうことが多いですね。今、年間で対応している約30~40件のうち1件ぐらいは導入が終わった後に、やっぱり使わないとか、社内で理解が得られないということが起こっています。
社長様はやりたいけど、他の役員や古参の方、従業員の方の理解が得られないということも結構あります。どうしても会社としてやるんだという強い経営者の意志が必要になりますので、我々として客観的に見てこれは優先順位が高いだろうと思って、会社の理解がない項目の優先順位を上げてしまうと、うまくいかないのです。やはり小さな成功体験を進んでいただくことが大事だと思います。

成約率は約10%

久原
中小企業への導入後の伴走支援で苦労されることもあると思いますが、例えば具体的には週に1回、2日に1回訪問するとか、伴走支援のやり方をもう少し聞かせていただけますか。

小野社長
だいたい月1回か2回くらいの設定です。事前に2週間後の面談日を決めて、それまでにこういうことをやっておいてくださいという形で進めていますので、そこでそれほど苦労していることはないと思います。やはりご契約いただくまでが一番大変です。お客様の自主性を大事にしていると、なかなか受注になりません。この5年間で約2000件問い合わせが来ていますが、実際成約になったのは200社ぐらいで成約率は10%ぐらいと考えています。
営業のヒット率が1割で空振りが多い点は苦労かもしれません。「今じゃない」といわれるケースや、直接費用対効果が見えない投資で、費用感がなかなか合わないというケースが多いですね。それから、一番苦労するとしたら、従業員の理解が得られないことがあります。自分の仕事がなくなるのではないかと思われるケースです。

久原
勤怠管理ツールであれば、ある程度は従業員のみなさんの理解が得られる可能性は高いと思いますが、キントーンは、じつは結構ハードルが高いのではないでしょうか。キントーンを導入している企業様の業種、業態とか小売店などの傾向はありますか。

小野社長
業種はまったく偏らないですね。卸売業だとCRM的な使い方をすることが多いなど、業種によっての使い方の違いはありますが、特定の業種に偏っていることはありません。

久原
お客様の中央値はどのくらいの企業規模ですか。

小野社長
従業員数10〜100名くらいまでです。年商では3〜100億円くらいまでのあいだかと思います。さらに規模の大きな会社になると自社でシステム担当者が存在しますし、従業員5名でも支援の効果があまりなさそうだと思います。そもそも愛媛県に従業員10名以上の会社は、全体の15%くらいしかありませんので、約8割が10名以下の会社ということになります。必然的に10名から30名くらいの会社が中心になると思います。

(後編へ続く)

あわい こゆき

あわい こゆき

ライター。主に女性のライフスタイルをテーマに執筆。一般の人から芸能人、文化人、企業の社長、政治家まで幅広く取材しています。